スペイン大田楽公演 〜東西をつなぐ楽劇の輪〜
スペインとACT.JTとの関係は、2004年に溯ります。当時福岡市からの依頼を受けた万之丞師はバルセロナで真伎楽の文化講演会を引き受けていました。その直前の急逝。福岡の野村万禄師が代わりに講演した事がきっかけとなり、翌年九世野村万蔵襲名公演をマドリードとバルセロナで催す機会をいただきました。
その時から、『いつの日か、大田楽や真伎楽をスペインへ届けよう』というのが、コーディネーターとして今回も活躍してくれた根本実香さんとの約束でした。
今年6月、日本スペイン交流400年記念事業として、文化庁のご助成と在スペイン日本大使館のご後援をいただき、大田楽はスペインに渡りました。団長は田主を演ずる野村万蔵師。松坂慶子さんとお嬢さんお二人も参加して23名のカンパニーでした。
25日にはマドリードで市民参加10名を指導し、その夜レティーロ公園内で上演しました(主催CASA ASIA)。翌26日は、「南蛮漆器:スペインに残された『日本』」展を開催していた市内装飾美術館で、国際交流基金日本センターからの依頼を受け、コラボ企画公演を行いました。400年前にスペインにもたらされた物品が息づく空間での大田楽は、濃密な時間を作り出しました。
27日はグラナダへ移動し、「グラナダ国際舞踏祭」参加演目として、カルロス1世円型劇場で公演しました。無料公演のため、お客様がいらしてくださるのか不安を抱えたリハーサルでしたが、開場と同時に長蛇の列が広い会場を埋めていきました。ようやく訪れた夜の闇に浮かび上がった大田楽は美しく、どこか神秘的ですらありました。終了後、一緒に準備した現地スタッフが、楽器を持ったり笠をかぶったりして記念撮影をし、慰労しあいました。
マドリード公演をご覧くださった、佐藤悟在スペイン日本国特命全権大使は、2003年ワシントンDCさくら祭り大田楽の際には在米日本国大使館公使でいらっしゃいました。万之丞師没後継続されていないものと思っていた大田楽と、スペインで再会できて嬉しいとおっしゃってくださいました。
大田楽は不思議にどの場所にも似合います。ワシントンDCタイダルベイスンのほとり、ソウル市郊外ショッピングセンター、ウィーンのシェーンブルン宮殿、ホノルルのカラカウア通りのパレード、夜のとばりが下りたグラナダ。そして、そこにはいつもお客様の笑顔がありました。
時を超え、国境を超え、共に躍る仲間を作り、人々に日本の美しさを伝える。大田楽はその役割を広げて来たように感じます。