カナダ公演 旅手帳
子どもから大人に成長する時期に出会ういくつかの名作文学があります。「赤毛のアン」もその一つです。日本語訳が刊行されたのは1952年、日本が焦土から立ち上がって7年後の事でした。子供のいない兄妹の元にもらわれてきた少女が、自分の想像力を駆使して運命と立ち向かう姿は、多くの日本の子どもたちをひきつけました。物語の背景には美しいカナダの自然が描かれていました。
2014年8月、プリンスエドワードアイランド(以下PEI)州観光局からのお招きをいただき、文化庁のご助成により、団長野村万蔵師以下20名のメンバーは「赤毛のアン」の国へと旅立ちました。
その年は、日本カナダ修好85周年、またカナダ連邦結成のため各植民地代表者会議(シャーロットタウン会議)が行われて150年、そして、赤毛のアン著者モンゴメリーの生誕140年という記念の年でした。日本の芸能が訪問する機会のほとんどないPEIは、絵のように美しいレンガ造りの町並みと、山と海と空、赤土と緑の世界でした。
8月9日 トロントを経由し小型飛行機に乗り換えた私たちは夜中の1時すぎにシャーロットタウン空港に到着しました。そこで大田楽の荷物が届いていないという驚愕の事実に直面しました。今までも海外公演では何かしらのトラブルはありますが、これは結構大きい方です。しかも、どうやら積み残しはもっと以前から溜まっていて、トコロテン式に届くらしいという事態。まずは本番まで30時間は猶予があるのでひとまず宿へ。リハーサルと地元市民参加への指導が行われる一方で、荷物はいずこ?と空港へ足を運びました。ウェブ上は乗っているはすでもターンテーブルは空回り。担当者は「仕方ないね」というしぐさ。そんな・・・・
夕方、ポーランドカレッジ内で、ウェルカムレセプションを開いてくださいました。ジョージ・ウェブスターPEI州副知事をはじめロバート・ヘンダーソンPEI州観光大臣、またお嬢さんが市民参加してくださっているブレンダ・ギャラントPEI州観光局マーケティング部長らがいらしてくださり、途中ミュージカル「赤毛のアン」で主役を演じているセリアさんもアンの扮装で登場。皆さんの温かいおもてなしに感謝の気持ちを表したいと、楽器の代わりにゴミ箱の底をたたくという究極の代用品で番楽を披露しました。
翌10日、本番5時間前に衣装、楽器、笠などが到着。全員ホッとしたのは言うまでもありません。時折霧雨が降る中、セレブレーションゾーン特設ステージで、古典狂言「梟山伏」(野村万蔵、野村虎之介、小林洸樹)と大田楽(笛・笙 稲葉明徳 タム 山下由紀子)を、セインカミュさんの解説でご紹介しつつご覧いただきました。
11日朝、カナダ国定史跡である州議事堂(プロビンスハウス)の会議室で、特別なお客様が招かれての狂言公演がありました。質疑応答も入れて、大変楽しんでいただけました。続けて、全員でキャベンディッシュへ移動し、プリザーブカンパニーという施設の協力をいただき、川沿いの道を行進し開けた場所で大田楽を披露しました。思っていた以上にたくさんのお客様が集まってくださいました。到着以来、あまり天気に恵まれていませんでしたが、青空が顔を出すようになり、清々しい風が通る中で最後の躍りを楽しみながら披露しました。
突然地元テレビCBC局のインタビュー、本番収録が入りました。夕方のニュースに流れるとのこと。CM前に流す「CBCテレビ!」という一言を言ってほしいと頼まれ、「チャンネルはそのままで!」と協力。楽しいひと時でした。また地元ガーディアン紙の一面に10日の大田楽が大きく取り上げられていました。